石巻工房のファウンダー・芦沢啓治と、カリモク家具の加藤洋副社長による対談です。
⚫石巻工房とカリモクのコラボレーションは、どのようにしてスタートしたのでしょうか?
芦沢啓治(以下芦沢):石巻工房としては、まさかカリモクさんからお声掛け頂けるとは思いもしなかった、というのが正直なところでした。
加藤洋(以下加藤):木製家具メーカーとして長年家具を作ってきて、本来あるべき家具とはどういうものだろう、あるいは自分たちが積み重ねてきたのとは違う家具の作り方について、ずっと考え続けてきました。本当にやりたいことは、売れるための家具じゃなくて、暮らしを彩るための家具を作る事です。使って頂く方々が幸せになる、そんな家具作りをやりたい。
そうしたら2011年3月11日のあの震災*があって、その後で「どうやったら被災された方々の暮らしを取り戻すお手伝いが出来るだろうか?」と考えていたら、これまでの復興支援とは全く違う、「被災者自身が、自らの手で必要なものを作って暮らしを取り戻す」ためのDIYをコンセプトにした石巻工房というブランドが立ち上がったんですよね。その時から石巻工房に興味を持ち、このブランドを立ち上げた芦沢さんにお会いしたい!と、ずっと思っていました。
芦沢:初めてお会いしたのは、石巻工房が誕生してから、割と早いタイミングでしたよね。
加藤:2013年秋のIFFT**でご挨拶させて頂き、「いいですよね、石巻工房」と興味がある事をアピールしたけれど、残念ながらその時はうまく伝わりませんでした。でも、それがきっかけですね。
芦沢:(笑)当時はまさかそんな、という感覚だったのでしょうね。それからしばらく経って、ある時から頻繁にコミュニケーションさせて頂くようになり、石巻工房の状況やこれからどうしていくべきか、などいろいろご相談させて頂くようになりました。
加藤:カリモクも新しい事にチャレンジして殻を破りたい、と試行錯誤していた時期で、2017年以降は芦沢さんを通じ、これまで手掛けた事のなかったさまざまな分野に挑戦させて頂いており、大変感謝しています。
その中で石巻工房とのコラボレーションのアイデアも膨らみ、2018年11月のIFFTで、「石巻工房 by Karimoku」のコンセプトとプロトタイプの初お披露目が実現しました。
⚫石巻工房とカリモクが最終的にコラボレーションすることにしたのはなぜですか?
加藤:DIYから始まっているからシンプルで作りやすく工夫されており、かつ様々な制約の中で生み出されたデザインが本当に素晴らしい。そんな石巻工房のプロダクトが大好きで、カリモクでも作らせて欲しいという想いがあったけど、同じものをカリモクが作っても意味がありません。でも、家具としてディテールや材料を吟味し、本格的に作ると素晴らしいものになると思っていました。
そこで、2017年から芦沢君と一緒にコラボレーションの可能性について考え始めて、2018年にデザイン小石川***で「architects meet karimoku」という展示をした際に、AA STOOLのカリモクバージョンを作ってみたら予想以上の反響がありました。オリジナルのデザインの良さを活かしつつ、違う魅力を引き出せたという手ごたえを感じました。
芦沢:そうでしたね、新しい何かが見えてきた様な感覚がありました。
加藤:石巻工房はその成り立ちからして心に訴えかけてくるストーリーがあり、更に「Made in Local」という地産地消を世界に拡げる活動や、サステイナブル・エコフレンドリーであろうとする姿勢が魅力です。カリモクも国産の木を使おうと取り組んできましたが、広葉樹については安定調達が難しいなど、なかなか作りにくいのが悩みでした。
それが展示会用のAA STOOLを作った際、針葉樹よりも丈夫な広葉樹を使用し、強度が確保できるレベルで部材サイズをミニマルにして、様々な樹種の虫食い・節など個性的な表情を持つ材料で遊んでみたら、すごく似合っている。これなら出来るのではないか、と閃きました。
芦沢:石巻工房は、被災後に「手元にある材料で何とかする」というところから始まっているので、素材を選ばないデザインという特徴はあるかもしれませんね。これまで石巻工房が主に用いてきた材料はカナダ産のレッドシダーで、それは2011年の発足当時に大量の寄付を頂き、また安定的に入手出来て高品質な材料だったから。
「Made in Local」でブランドとしてサステイナビリティを意識した活動を始めたのは、実は最近になってからなんです。その流れをくむ形で、カリモクでは使いにくかった材料を、それにまつわるストーリーも含め、石巻工房 by Karimoku のプロダクトを通じて活用する事が出来るなら、うれしい限りです。
⚫このコラボレーションのユニークな点・意義はなんでしょうか?そして、このコラボレーションを通じて何を示し、強調したいですか?
芦沢:石巻工房に新しいストーリーを加えられること、つまりこれまでの歩みや試行錯誤があってここまで到達した、その先を語る事が出来ると思いました。それを、お客様にどう伝えるかが課題ですね。
加藤:石巻工房が設立された際のコンセプトやスピリットはシェアしつつ、オリジナルの石巻工房とは異なる魅力を引き出せると思っています。オリジナルが持つラフで力強いイメージを斧だとすると、研ぎ澄まされた日本刀のような。個々のデザインが持つ別の美しさや魅力を多くのお客様に感じ取って頂けるのではないかと。
芦沢:DIY前提のプロダクトをきちんとした家具にして頂けて、本当にありがたいです。石巻工房のこれまでの歩みを踏まえつつ、カリモクと一緒だからこそ可能となる、更なる発展を共に目指していくというメッセージを伝え、そのストーリーに広く共感して頂ければ嬉しいです。そして、オリジナルの石巻工房との違いについてもきちんと伝えていきたいですね。ユーザーとなって下さった方々にも参加して頂く、そんなブランドになればいいと思います。
加藤:オリジナルがしっかりとしているからこそ、個性豊かな応用ができると思います。確固とした原点がある。その原点には、震災時に多くの人がボランティアとして復興に参加したように、他者への思いやりとか助け合いの心も含まれています。家具を大切に使いながら感じ取って頂けるといいですね。
また、このコラボレーションにおいては、あえて有効活用されているとは言い難い木を、手間暇かけて使用しています。このことから、持続可能な未来の在り方、特に自然との共生についても、多くの方々に思いを寄せて頂ければ。色や形といったデザインの魅力を伝えるだけでなく、身近な木や森が、かけがいのない存在であるといった、形で表現できないメッセージや、他者や自然に対する思いやりの心についても、しっかり共有していきたいですね。
芦沢:2011年の震災復興を目指して立ち上げた石巻工房としても、このまま小さな工房を少人数で続けていても限界がある、という行き詰まり感がありました。
津波の記憶は徐々に薄れ、援助は打ち切られても、被災した人々の暮らしは続いていくんです。だから活動を継続し、更に発展させていくために、コラボレーションという形でサポートしてくださる企業の力をお借りする事にしました。
新たな一歩を踏み出すためにカリモクがパートナーとして力を貸して下さった事は、本当に幸運だと感じています。
⚫未来を見据え、このコラボレーションの将来をどの様に計画していますか?
芦沢:このブランド独自に、カリモクのやり方で新しいデザインを生み出す可能性がありますね。プロダクトはこれからも増えていくが、毎年新作を発表していく様な形ではないような気がします。オリジナルモデルを家具としてリデザインしていくというアプローチ以外の可能性もありますので。
加藤:いろいろな樹種で作りたいけれど、カリモクの家具づくりでもホワイトオーク(=ナラ)は輸入材に頼らず、使用量の98%位を北海道・東北産材でカバーしているので、地産地消に取り組む石巻工房の姿勢をリスペクトする意味でも、まずは国産なら材をベースにしたいです。
活用するべき「未利用材」については、災害で倒れた街路樹や定期的に伐採される果樹など、いろいろなアイデアがあるし、供給ルートや安定調達についても検討を進めていきます。
全世界において木は6万種あると言われていて、その中には区別がつかないから同一種と見なされているものも含まれています。多様性を認める豊かな社会になるよう、この新しいブランドを通じて貢献できればうれしいです。
脚注
*あの震災:平成23年3月11日(金曜日)日本時間14時46分、宮城県沖を震源とするマグニチュード9(発生当時観測史上最大)の大地震が発生。場所によっては波高10m以上、最大遡上高40.1mにも上る巨大な津波が押し寄せ、東北地方と関東地方の太平洋沿岸部は壊滅的な被害を受けました。石巻工房は、この東日本大震災で最も被害の大きかった宮城県の、最も太平洋側に突き出した石巻市で生まれ、現在もその場所で活動を続けています。
**IFFT:IFFT/インテリア ライフスタイル リビングは、毎年11月に東京ビックサイトにて開催されるインテリア・デザインの国際見本市です。
***デザイン小石川:芦沢啓治が、自身の事務所のある東京・小石川にて2016年から2年間の期間限定で構えたギャラリースペースです。街とデザインをつなぎ、これからの小石川の可能性を拡げることを一つの目的として、広々としたギャラリーと複数の店舗が同じフロアに出店しました。数々の良質なプレゼンテーションが行われ、地元の人々にも気軽に立ち寄れる場として愛されましたが、テナントビルの解体により、惜しまれながら2018年7月末で閉鎖されました。